ズレ住まいvsズレ矢倉

 今日は朝日杯で今泉アマvs小林健二という面白げな対局ありますね。今泉アマはいつも通りの中飛車一本で直球勝負でしょうが、変則投法のコバケンがどんな作戦でくるか。

羽生善治-△糸谷哲郎…▲羽生勝ち

 糸谷先勝で迎えた三番勝負第2局。糸谷後手ということで得意の一手損角換わりへ。先手の棒銀に対して、後手は飛車を4筋に振って玉を右に囲う、竜王戦トナメでも屋敷戦で見せていた作戦。その時も書きましたが、生まれながらにして非常に苦難を抱えている、この右玉というか一路ズレた中住まい、ズレ住まい。私が指したことある戦型の中でも「薄さ」でいえばトップ3に入ると思います。ちなみにトップ3の残り2つは、相掛かり中原流3七銀戦法と雁木右玉。
 屋敷は左銀を攻めに使うという意表の対抗策を見せましたが、羽生はごくごく普通に金銀3枚の矢倉に囲って対抗。この時点で玉の堅さは先手大きくリード。普通に駒組みされただけでとんでもないマイナス負ってるとかどうなってるんだこの作戦はと言いたくなりますが、この偏差値40からの大学受験という感じこそが一手損角換わりです。
 糸谷はいきなり単騎の角打ち込みから開戦。堅さで劣ってる後手としては、先にガリガリ食いついて先手玉も薄くするか、ガンガン駒を前進させて駒の働きで上回るかしないとしょうがないわけですが、この角打ちは相手に対応させることで時間を稼いでその間に駒を押し上げながら、場合によってはぶった切って薄くする手も見るという両睨み。ボンヤリしてるようですが、いかにも一手損角換わりを指し慣れているという感じのもたれ角。
 糸谷にもたれかかられたらさぞ重かろうと思いましたが、羽生は矢倉の要の金を右にズラして真っ向から受け止める構え。せっかくの玉の堅さを自ら放棄するようですが、一度は棒銀に出て行った右銀も初期位置の3九まで引き戻し、角も自陣に放ってと自陣全体を要塞化。もたれてきた糸谷を受け止めるどころか潰しにかかってます。
 糸谷は金銀3枚を押し上げて喰らいついていこうとしますが、羽生がちょこちょこ飛ばしてくる歩のストッピングジャブの鬱陶しさにもたもたしてると、急にギアを入れ替えた羽生に抜き打ちでたたっ斬られてしまいました。銀捨てて飛車二枚の寄せとか私がやったら間違いなくスッポ抜けそうな薄い寄せ方に見えたんですが、これが羽生にかかると「厚い寄せ」(107手目棋譜コメ)だったらしいです。さすがに金駒なしの寄せが「厚い」ってことはないんじゃないかと思うんですけど。
 これで1勝1敗。この一局だけ見るとまだ力の差あるようにも思えますが、一発勝負なら分かりませんから。ただ一手損角換わりは厳しい気はしますけど。

中飛車<相振り<左穴熊<袖飛車?

 前回、今泉アマに倣って週1000問詰将棋解こうと決意したわけですが、さっそく取り掛かったところ、46問目で寝落ちしました。最近、詰将棋やろうとすると必ず獰猛な睡魔に後頭部をぶん殴られて気絶するんですが、なにかの呪いでしょうか。
 王位戦第5局は「羽生つええ」以外特に言うことないので割愛。棋譜中継に追加された感想戦のコメントもやけにあっさりしてましたが、そこにいたプロもみな「羽生つええ」以外の感想がなかったんだと思います。

久保利明(1-1)-△郷田真隆(1-1)…△郷田勝ち

 初手▲5六歩の中飛車宣言に対し、郷田は△3二飛と飛車を振って対抗。すると久保は▲5五歩〜5六飛と一直線に浮き飛車にする工夫を披露。▲2六飛の飛車回りを見せることで△3三角と受けさせ、飛車を圧迫しにくる後手の左銀の進出ルートを塞いでおいてから玉を左に。今ホットな先手中飛車対策の相振り飛車対策の中飛車穴熊へ。
 当然、予期していたであろう郷田の先手中飛車対策の相振り飛車対策の中飛車穴熊対策は、居玉のまま△7四歩。袖飛車に振り直しての速攻で穴熊に潜る前に潰そうという狙いです。振り飛車から袖飛車への振り直しとか大山康晴かて。
 実際には袖飛車は実現しませんでしたが、牽制としては十分機能して穴熊の阻止に成功。気づいたら後手は四枚美濃に収まってるのに対し、先手はうっすい舟囲い。しかも玉の真上に垂れ歩の爆弾つきで、ほとんどリフォームのしようもないという。中飛車穴熊という新しい安息の地を見つけたと思ったら、早速こんな超地雷物件を押し付けられるとかやってられません。
 袖飛車は玉が薄くて指しこなすのが難しい(だから大山くらいしか指さなかった)ので、中飛車穴熊対策の決定版になるとは考えにくいですから、今後もA級居飛車党による左穴熊対策研究発表会は続いていくんだと思います。

山崎隆之(3-0)-△飯塚祐紀(0-3)…▲山崎勝ち

 相掛かり先手引き飛車棒銀。角の軽やかな転回で山崎が局面リードしたかに見えましたが、飯塚も二枚の銀をグイグイ繰り出す手厚い構えで主導権を奪い返すことに成功。しかし山崎は二段目に金銀角を全て退却させて手足引っ込める亀戦法で我慢。堅いガードに手を焼いた飯塚がより重いパンチを打ち込もうと振りかぶった瞬間、狙い澄ましたカウンタが突き刺さってあっという間に形勢逆転。まっくのうち、まっくのうち。ホント厚みと上ずりは紙一重です。

谷川浩司(0-2)-△佐藤天彦(3-0)…△佐藤勝ち

 横歩取り△8四飛・5二玉型。△7二銀〜2三銀としてから△2四飛と飛車ぶっつけるのがここしばらくの流行ですが、佐藤は更に過激に△2三銀上がらずに飛車ぶつけ。飛車角総交換でいきなり終盤突入の順もありそうでしたが、いかにも研究にハマりそうと見たか谷川は▲2五歩と飛車交換拒否して穏便な順へ。
 自然流を思わせる本筋の手の連発で局面をリードしたのは谷川でしたが、佐藤もしぶとく喰らいついて決め手与えず。それでもあと一押しで谷川押し切れそうというところ、佐藤は成り込みが見込める飛車をあえて端に逃がすという鬼手。これが谷川を惑わせ、いつの間にか逆転して佐藤勝ち。これは谷川がどうこうというより、佐藤が強かった。

佐藤流横歩取らせ縦歩取り

 今泉健司アマが浦野ハンドブックで詰将棋を毎日1000問解いてるという話を聞いて、自分も頑張らねばという気になったはいいものの、さすがに1日1000問はキツイから1週間1000問でいいかな…とさっそく妥協する弱い私。1日1000問が1週間1000問では7分の1の量ですが、棋力も7分の1くらいなので丁度いいはず。

佐藤康光(2-0)-△阿久津主税(0-2)…▲佐藤勝ち

 横歩取りの出だしでしたが、先手の佐藤が横歩を取らずに▲1六歩と端を突く趣向を見せます。最近、渡辺明も先手番で横歩を取らない将棋指してましたが、流行ってるんでしょうか。本局では先手にかわり後手の阿久津が横歩を取り、先手の方も結局3四の歩を▲3六飛→3四飛のルートで取ったので、縦歩取り対横歩取りというなんとも斬新な戦いに。
 斬新な将棋での構想力勝負となるとこれは完全に佐藤の土俵。なにせいつも斬新な将棋しか指してませんから。佐藤が飛車を見捨てての攻めを強行した時点で、阿久津陣の盤面左半分は△8四歩〜7三銀と横歩取り系の将棋とは思えない重たい格好で屈服、右半分は思いっ切り壁型。ちょっともうどうしようもない。
 強烈な強さ見せて佐藤は3連勝。久々の名人挑戦、そして初の羽生佐藤の名人戦も視野に。対する阿久津は3連敗。内容もいまいち覇気が感じられず。思い出A級コースまっしぐら。

▲北浜健介(2-0)-△中川大輔(2-0)…△中川勝ち

 B級2組3回戦も行われましたが、モバイル中継あったのは2局。
 相掛かり愛好家同士の対戦ということで、当然、戦型は相掛かりに。先手引き飛車棒銀
 角交換から先手は3四の一点狙いで33手目▲5六角と早々に角手放しましたが、これが効果イマイチ。後手は自分だけ角を手持ちにしてるというアドバンテージを活かして駒組みでジリジリと優位を奪っていき、64手目△2七角が飛車金両取りのクリーンヒット。以下も焦らずじっくりことこと料理して中川快勝。

中村修(2-0)-△島朗(0-2)…▲中村勝

 ▲7六歩△8四歩▲5六歩の中飛車模様から向飛車に振る将棋。
 先手はごく普通の美濃囲い。と見せかけておいて左銀を2八まで引きつけて四枚穴熊に。美濃と見せかけての穴熊というと神吉流と呼ばれる指し方がありますが、本局は端歩突いて高美濃に組んでからの組み替えですので、より見せかけ度が高いです。後手も穴熊には穴熊をといきたいところですが、すでに桂を跳ねてしまっていたのでクマることができず、銀冠に。
 力の入った捌き合いから飛車を先着したのは先手。穴熊に飛車先着されては厳しいですが、後手も受け一方の角打で我慢しながら、上部に厚い銀冠を活かして玉頭戦に勝負を賭ける。かと思いきや、玉頭戦が始まろうとしたところであっさりと後手投了。早投げで知られる島ですが、さすがに早すぎやしませんか。

 B級2組は3回戦終わって全勝が中村修中川大輔糸谷哲郎、佐々木慎の4人(佐々木は3回戦抜け番だったので2勝)。ただこの4人は順位が19〜22位と揃って低いですし、イヤらしいオヤジ揃いのB2ですのでまだまだ。

C-1 class : 3rd game

 王位戦第5局は角換わりになってますね。これで矢倉3、角換わり2。
 今日もモバイル中継より。

斎藤慎太郎(1-1)-△菅井竜也(2-0)…△菅井勝ち

 関西若手同士の好カード。プロ入りが2期先で棋戦優勝歴もある菅井の方がやや格上なイメージですが、順位戦では2期連続で斎藤勝ち。しかも前期は菅井の開幕からの連勝を止め、結果的に昇級を阻んだことになっただけに菅井としても期するものありそうです。
 ▲7六歩△3四歩▲2六歩△4四歩という、ノーマル振飛車かウソ矢倉かという出だし。ここで▲2五歩突くべきかどうか問題というのはなかなか悩ましいところです。ウソ矢倉を許さんというなら▲2五歩△3三角を決めて飛先交換を権利にして指したいですし、向飛車を警戒するなら▲4八銀などと指すところ。プロなら相手を見て、居飛車党なら▲2五歩、振り飛車党ならその他の手と決めればいいんですが、じゃあ「元はガチガチの振り飛車党だけど最近は居飛車もよく指す」という相手にはどうすべきかという。
 斎藤は▲4八銀と「振り飛車党の菅井」を警戒しましたが、「最近は居飛車もよく指す菅井」はしらっと△4二銀からウソ矢倉に。これは先手としては何となく悔しい。まあ、▲2五歩突いてたら向飛車にされたのかもしれませんけど。どっちにしても相手を序盤早々クサクサさせることができるという、振り飛車党寄りのオールラウンダだからこそのなかなか嫌らしい序盤戦略。
 自分だけ飛先を突いている先手は、普通に駒組み進めてはつまらないと先手番での米長流急戦矢倉へ。これも後手がウソ矢倉にしたからこその選択肢で、悔しいだけでは済まさんという斎藤の意思を感じます。
 中盤以降はあちこちで駒がぶつかる激しい戦いに。終盤、先に追い詰められたのは後手玉だったんですが、ここから先手玉を上部に引っ張り出してお互いの玉同士の接近戦に持ち込むと、詰めろ逃れの詰めろの応酬の末にうっちゃり決めて菅井勝ち。うむ、二人とも強い。

田中寅彦(0-2)-△真田圭一(2-0)…▲田中勝ち

 相矢倉。先手が▲6七金右と上がるのを少し遅らせているのを見て、後手が袖飛車に振る展開。先手が6筋、後手が4筋に位を張って、お互い手厚い陣形を作り合う力将棋に。
 ジリジリとした駒組みから先に動いのは田中でしたが、一番手厚いところをこじ開けようというのはさすがにしんどく、あっさり桂損したわりには戦果が上がらず。攻めが切らされるギリギリのところで何とか手を繋げて踏ん張っていると、今度は真田が得した桂をぶっこむ歩頭桂から猛攻。これは潰れかに見えましたが、▲7九桂打、▲9七桂と受けに最も適さない駒である桂を総動員してのつま先立ちでの凌ぎで何とか踏ん張り、最後はバシッと寄せ切って元祖ファンタジスタらしからぬ終盤での逆転で田中勝ち。攻守両面での田中のしぶとい踏ん張りが光りました。

C-2 class : 3rd game

 昨日一昨日と順位戦C級2組3回戦の25局が行われてました。私は現在課金してるのが日本将棋連盟モバイルのみなので、そちらで中継された4局についてのみで。

  • C級2組3回戦

▲矢倉規広(1-1)-△千田翔太(2-0)…△千田勝ち

 出だしは▲7六歩△3四歩▲6六歩△1四歩と相振り飛車風でしたが、なんだかんだで相居飛車に。
 矢倉が左美濃含みに▲7八銀と上がると、千田は左銀を中央に繰り出して急戦矢倉へ。通常の▲6八銀から組む場合に比べて中央が手薄と見ての動きでしょうか。単に薄い玉形で暴れるのが好きなだけという可能性もありますけど。
 途中までは後手の玉が薄すぎてさすがに大変だろうと思ったんですが、局面が進んでみると囲いに収まる前に戦闘に巻き込まれてしまった先手玉の方が大変なことになってました。相手が中央から攻めてきてるので左美濃には組みづらい先手は▲7七銀〜▲7九角と矢倉に切り替えたんですが、この角が6八などに上がる暇も与えずに後手が襲ってきたので角が壁になって玉を囲うルートが防がれてしまってたという。結局、先手玉は作った城の玄関にも辿りつけずに6九の地点で討ち死に。
 相手の角道が閉じてない=急戦がある状態での左美濃にはこういう危険もあるんですね。デビル中田の左美濃は後手の作戦ですし。好調千田は無傷の3連勝。

岡崎洋(2-0)-△長岡裕也(2-0)…▲岡崎勝ち

 横歩取り、先手は6八玉型、後手は8四飛・5二玉型。
 後手は△7二銀と一手で囲いを済ませて先攻狙うのかと思いましたが、どうも踏ん切りがつかなかったようで△5一金と中原囲いへの組み替えにシフト。しかし、それを見た瞬間に先手から▲9六歩、詰められてる自玉側の端を突く地獄突きで開戦。地獄突きってだいたいが切羽詰まった局面での勝負手として繰り出すもので、最初の仕掛けに突くようなもんじゃないんですが。よほど後手の中原囲いへの組み替えが甘えに見えてピキッと来たんでしょうか。そんなの通すと思ってんのかタココラと。
 リフォーム途中でとっ散らかった玉形で戦いに突入しては強く戦えません。なおさら踏ん切り悪くなった後手の攻めを、先手は1九、2九、3九と並べた三本の香の槍衾で串刺し。最後はついに踏ん切りつけたというかヤケクソになった後手の特攻もきっちり処理して岡崎3連勝。

▲佐藤慎一(2-0)-△桐山清澄(2-0)…▲佐藤勝ち

 横歩取り、△8五飛+5二玉型中原囲い。
 派手な空中戦というイメージ強い横歩取りですが、桐山は34手目△2四歩、54手目△7四歩、56手目△8一飛、64手目△7四桂とキズを丁寧に消していく渋い手を連発。飛車も隠居させながら耐えて反撃のチャンスを窺い、ついに満を持して四枚の桂を投入して総攻撃。三桂あって詰まぬことないんなら四桂あったらどうなってしまうのか、世界が終わるんじゃないかとも思われましたが、王どころか歩越しの狭い飛車すらろくに詰ませることもできずに空振ってチャンスタイム終了。まあ、頭の丸い駒ばっかりあっても、ねえ。

▲竹内雄悟(2-0)-△加藤一二三(0-2)…▲竹内勝ち

 先手ノーマル四間に後手はもちろん棒銀の対抗型。普段は角道閉じない現代振り飛車ばっかり指すような若手も、加藤相手にはクラシックなノーマル四間ぶつけてくる印象あります。それが「加藤の棒銀」を勉強したいという熱い思いからなのか、居飛車穴熊やってこないから与し易いというドライな計算によるものなのかは分かりませんけど。
 金の一人遊びで手待ちする振り飛車に対し、居飛車は後手ですし飛車のスクワットで千日手狙いにいく手もありそうでしたが、長考の末に敢然と桂跳ねて自ら退路を断つのは剛毅な加藤らしい。捌き合いの末、先にと金できたあたりではそれなりに居飛車も戦えそう。と思ったら、ちょっと目離してるうちに桂と金銀の交換というゴッツい駒損になってました。うーん。それでも持ち時間使いきって日付変わるまでは指し続けるんですから、恐るべき闘争心です。

バグってハニー

 ふと、はてなダイアリーてフラ盤なりKifu for Flashなり使えたっけと思って調べてみたんですが、ちょっと難しいみたい。「iGoogleのガジェットを使えば可」らしいのですが、iGoogle終了してますし。あるいは今でも何か方法あるのかもしれませんが、こんな枯れたとこに無理矢理、適応しようとするより、さっさとよそに移転するなり、棋譜倉庫専用のサブページを作る(素敵三間飛車方式)なりした方が早い気がします。

木村一基-△羽生善治…△羽生勝ち

 1勝1敗1持将棋で迎えた第4局。ここまで矢倉、矢倉、角換わりと来ましたが、本局では三度、矢倉。先手の木村は第2局と同じく、4六銀3七桂戦法へ。
 先手は9筋を受けるマイナーな順をチョイス。この戦型は後手が△9五歩と突き越すか、△8五歩と飛車先を決めるかの二択で分岐していく、というのが私の大雑把な理解なんですが、そのどちらでもない形。△9五歩とちょっかい出す手を与えるので先手にあまり得はなさそうにも思えますが、受け師木村としてはむしろちょっかい出してきてもらった方が力出しやすいということでしょうか。
 実は羽生も昨季のA級順位戦深浦康市戦で先手を持ってこの形指していた(後手の深浦勝ち)んですが、先に変化したのは前例では勝っていた後手、羽生の方でした。50手目、△6四歩。

 羽生深浦戦では分かりやすく端に数足して脅かす△9二飛、それ以前では専守防衛の△4二銀が多かったようですが、それらに比べて何ともボンヤリとした一手。将棋で「ボンヤリした手」という場合、直接手ではない、含みをもたせた深い手というような肯定的な意味で用いられることもあるんですが、破壊力の高さで恐れられる4六銀3七桂型に対して、その攻めを牽制している角のラインを自ら止めてしまう、というのは本当にただボンヤリしてるだけの手にも見えなくはない。解説の阿部隆にいたってはPCのバグかと思ったとまで言ってましたし。6四、6五と歩を伸ばしていけば攻めが厚くなる、という意図は分かるんですが、相手の総攻撃が目の前に迫ってるのに2手かけて将来の「攻めの厚み」というフワッとしたものを作りに行こうとしますか普通。

 で、上の図から20手進むとこうなります。△6四歩〜△6五歩の突き捨てを入れたことで利いたこの叩きがクリーンヒット。取れば△5四桂のふんどしなので▲5六金とよろけましたが、バッサと角切って△5七銀と絡みついてこられると6六に残った歩の拠点が大き過ぎて、小駒だけの後手の攻めがほどけない格好になってるっていう。…一体どこまで読んでたんでしょう。もー、こーわーいー。
 これでついに羽生王位が2-1でリード。ここまで矢倉の3局は全て後手勝ちという二日制の対局としてはなかなか非常識な結果となってますが、第5局はどうでしょう。後手木村の2手目の選択がまず注目。矢倉と心中か、そろそろ横歩か。1週間後が早くも楽しみ。

挑決ノ一。

糸谷哲郎(3組優勝)-△羽生善治(1組優勝)…▲糸谷勝ち

 森内竜王への挑戦を賭けた三番勝負の第一局。振り駒の結果、糸谷が先手。初手▲7六歩に対し、羽生は△8四歩の"王者の一手"で糸谷得意の角換わりを受けて立つ構え。
 戦型は相腰掛け銀。糸谷の右銀の動きを後回しにする手順は行方尚史戦でも見せてましたが、これは何か狙いがあるんでしょうか。今のところ、結局は普通の腰掛け銀に合流してるのでそれが何なのかは分かりませんけど。
 羽生は先後同型になる一手前に△6五歩とちょっかい出してから△3三銀と手を戻す、ツツカナ新手と言われる順を採用。

 この手は、電王戦前の練習中にツツカナに指された船江恒平順位戦で採用したという新手誕生の経緯は話題になったものの、厳密には無理気味だろう(ちょっと違和感ある手順ですし)ということで真似する人もあらわれず、あっさり「消えた戦法の謎」化してたんですが。羽生がこの大舞台で採用したとなると、また見直されて実戦でも出てくるようになるかもしれません。プロ棋士は全員が羽生マニアですので、船江やコンピュータが指した時には鼻ほじりながら「ふーん」で済ましても、羽生が指したとなるとがぜんプレミア化して行列作り出しますから。
 糸谷もツツカナ新手は意表つかれたでしょうが、強く踏み込んで殴り合いに。角桂と金銀の交換となって後手玉を薄くすることには成功しましたが、後手の二枚の角が絶妙に攻防にニラミを利かせていてあと一歩が踏み出せない金縛り状態に。

 守備駒を剥がされようが大駒と玉を目一杯利かせてバランスを保つ。これが名人の芸かあ、と思わず感動。
 …していたんですが、大駒パワーを過信したのか受けに回るタイミングがちょっと遅れると、すかさず糸谷が喰らいついて逆転。羽生としてはらしからぬ逆転負け。あれま。この日は関西での対局ということで控え室に詰めかけた森信雄門下生たちの念が利いたでしょうか。ともかく糸谷が先勝し、がぜん面白くなってきました。