「端玉には端歩」の対偶

羽生善治王座-△豊島将之挑戦者…▲羽生勝ち

 羽生善治王座に豊島将之が挑む王座戦五番勝負が開幕。振り駒の結果、羽生先手でスタート。
 まずはがっぷり四つで勝負と相矢倉へ。定跡型とはいえお互い猛烈なスピードで指し手を進めていき、昼飯前には89手という、二日制の二日目の昼前でもわりと早めというくらいの超ハイペース。これは羽生相手には飛ばせるところはとことんすっ飛ばして終盤にたっぷり時間を残すべしという、渡辺明森内俊之が有効性を証明してきた羽生対策を豊島も踏襲してきました。ただ、羽生も既にバージョンアップされて、ハイペースにもぴったりくっ付いて同じようにたっぷり終盤に時間残すようになったので、この羽生対策も有効性は怪しくなってるんですが。
 戦型はおなじみ3七銀戦法から、先手が飛角捨て、さらに銀も捨てて後手玉を下段に落として、その真上に桂を成り込むという、超過激な順に。これは今年の王将戦第1局、渡辺羽生戦が記憶に新しいですが、当時の私は「羽生も受け損なうことあるんだなあ」という感想を抱いたように記憶してます。私のこの戦型への印象としては、先手の攻めはちょっと無理気味で正確な対応すれば後手勝ちそう、ただ受けに適さない駒で受け切らないといけないのでその「正確な対応」がとんでもなく難しい、という感じです。
 しかし、本局の豊島はここまでの超ハイペースぶりからしても事前研究バッチリだったはず。きっちりと対応してみせます。

 これが対応が一段落した局面。ここでは先手は後手玉の頭を抑えていた頼みの成桂を払われ、持ち駒の飛銀、さらにだいぶ遠巻きにいて数に入れていいのか怪しい金桂あわせてもやっと四枚の攻め。歩切れで小細工も利かず、広い上に飛車の横利きも強い後手玉を捕まえられそうには見えません。
 一方の先手陣はまだ金銀3枚残ってるとはいえ矢倉崩しの銀ひっかけも入っていては時間の問題。ここではさすがに後手優勢、のはず。お気楽な控え室なら後手勝ちと断言してもおかしくないかもしれません。で、この局面から十数手ほど進むとこうなります。

 先手必勝の図。…おかしいだろうがよお。
 どうやら96手目△9六歩が分岐点だったでしょうか。この手は9七にスペース作ることで、将来、先手玉が9八に逃げてきた時に9七に打ち込んでの即詰みの筋を作ろうという狙い。つまり、豊島としては9八に先手玉が逃げてから△9六歩と突いて一手スキを掛けるのでは間に合わない将棋だと判断したということになります。
 しかし、実際には9七にスペース作ったことで先手玉の退路が生まれ、おかげで豊島は即詰みどころか一手スキを掛けることすらままならず。すると羽生は悠々と二手スキを掛け続けて投了に追い込むという、なんとも皮肉すぎる結果に。一手スキで間に合ってたじゃーん、っていう。
 番勝負の初っ端でこの負け方はキツイ。これだから鬼畜眼鏡とか呼ばれるわけです。豊島は元々終盤が切れるというタイプではないですが、切れない分、ひっくり返されるようなことも少ないんですが。
 ただ落ち着いて考えると、まだ羽生が先手番を一つキープしたというだけ。豊島には序盤研究のストックもまだありそうな気配ですし、先手番の第二局は必勝を期してとっておきをぶつけてくるんじゃないでしょうか。