挑決ノ一。

糸谷哲郎(3組優勝)-△羽生善治(1組優勝)…▲糸谷勝ち

 森内竜王への挑戦を賭けた三番勝負の第一局。振り駒の結果、糸谷が先手。初手▲7六歩に対し、羽生は△8四歩の"王者の一手"で糸谷得意の角換わりを受けて立つ構え。
 戦型は相腰掛け銀。糸谷の右銀の動きを後回しにする手順は行方尚史戦でも見せてましたが、これは何か狙いがあるんでしょうか。今のところ、結局は普通の腰掛け銀に合流してるのでそれが何なのかは分かりませんけど。
 羽生は先後同型になる一手前に△6五歩とちょっかい出してから△3三銀と手を戻す、ツツカナ新手と言われる順を採用。

 この手は、電王戦前の練習中にツツカナに指された船江恒平順位戦で採用したという新手誕生の経緯は話題になったものの、厳密には無理気味だろう(ちょっと違和感ある手順ですし)ということで真似する人もあらわれず、あっさり「消えた戦法の謎」化してたんですが。羽生がこの大舞台で採用したとなると、また見直されて実戦でも出てくるようになるかもしれません。プロ棋士は全員が羽生マニアですので、船江やコンピュータが指した時には鼻ほじりながら「ふーん」で済ましても、羽生が指したとなるとがぜんプレミア化して行列作り出しますから。
 糸谷もツツカナ新手は意表つかれたでしょうが、強く踏み込んで殴り合いに。角桂と金銀の交換となって後手玉を薄くすることには成功しましたが、後手の二枚の角が絶妙に攻防にニラミを利かせていてあと一歩が踏み出せない金縛り状態に。

 守備駒を剥がされようが大駒と玉を目一杯利かせてバランスを保つ。これが名人の芸かあ、と思わず感動。
 …していたんですが、大駒パワーを過信したのか受けに回るタイミングがちょっと遅れると、すかさず糸谷が喰らいついて逆転。羽生としてはらしからぬ逆転負け。あれま。この日は関西での対局ということで控え室に詰めかけた森信雄門下生たちの念が利いたでしょうか。ともかく糸谷が先勝し、がぜん面白くなってきました。