スペシャリストとの付き合い方

郷田真隆-△三浦弘行…郷田勝ち

 居飛車党のA級安定勢力同士の対戦は、横歩取りに。昼飯前に50手以上進むハイスピードな進行。ちょっと前、横歩の将棋が研究発表会としてファンに嫌われがちだったころはよく見た光景ですが。最近は横歩の中でも戦型が分散傾向にあり、研究絞って狙い撃ちするのが難しくなったのでこうもすらすら進むのは珍しいです。郷田は特定の戦型をこだわって指し続けるタイプなので、三浦も絞りやすかったのでしょう。
 本局の松尾流△5五飛から、作りあった馬をぶつけて金を5六にもりっと進出させるのはまさに郷田が得意としてる形。というか、郷田以外は最近指す人いないんじゃないかという形。さらに後手が金銀桂のバリケードをタダで取ってる間に、先手は急所に飛車を成り込むという、お互いこの順は研究済みですよと言わんばかりの超過激な進行。どちらの研究が上回ってるかというところで、先に長考に沈んだのは三浦。どう見ても後戻りできない局面になってから考え込んでも遅いんじゃ…と思われましたが、やっぱり遅かったみたいです。3時間考えたものの勝ち筋は見つけられず。20時過ぎ、77手で三浦投了。郷田がこの形のスペシャリストとしての強さ見せた一局。

▲長谷川勇気-△貞升南…貞升勝ち

 振飛車党の長谷川の初手▲7六歩に対して、居飛車党の後手貞升は2手目△6二銀。いきなり目線を外すイーファスピッチ。ふふん。嫌いじゃないです。これは角交換振飛車を嫌った意味でしょう。角交換振飛車が嫌なら角道開けなければいいじゃないという。ある意味もっとも根本的な対策。居飛車で来られると若干困るかもしれませんが、振飛車党が慣れない居飛車指すことの不利を考えればトントンだろうという実戦心理。初手から棋理を追求する(キリッ)とかそいういうのはトッププロに任せておけばいいじゃない。
 長谷川は自分のスタイルでいこうと▲6八飛から振飛車に。それも正しい。それでも角道開けたままで駒組み進め、場合によっては手損してでも角交換に持ち込みそうな雰囲気漂わせる先手に対し、後手はあくまで角道開けずに鳥刺しを匂わせる陣形に。さすがに角頭守らないとマズイかと根負けして▲6六歩と角道止めたのを見て、そこでやっと△3四歩。ここらへんの水面下での意地の張り合いは見ててニヤニヤしました。結局は▲ノーマル四間vs△居飛車急戦という、古典的だけど今となってはマニアしか指さない形に。しかも△6五歩早仕掛けとかその中でもさらにマニアック。この指しなれない形に困惑したか、あるいは序盤からの駆け引きにウンザリしてたか、長谷川に中盤で読み抜けがあり貞升圧勝。

 ちなみに2手目△6二銀自体は、後手英春流指すつもりなら相居飛車でもありうる手です。解説コメで△6二銀の指し手として井道千尋女流の名前が挙がってますが、井道は鈴木英春氏の教えを受けた英春流の使い手だったはず。長谷川が居飛車にしてきた場合、貞升が英春流を指すつもりだったのかは分かりませんけども。
 さらに話それますが、英春流かまいたちって最近流行りの中飛車穴熊に通じる部分ありますよね。むしろかまいたちの方が中飛車穴熊を進化させたような形にも見えます。やや奇形な進化ですけど。相居飛車での飛車先交換を手損と見てあっさり許す指し方などはソフトの考え方に似てますし、英春流のもつ先見性というのは評価されていいと思います。