M・I・M! M・I・M!

 大所帯のC級2組、今期からは一斉対局でなく2日に分けて行われるようになったんですね。これはありがたい。1日20局以上とか中継する方も見る方もしんどいですから。19日に行われた12局の中から気になった対局について。あと、今回からその対局で最も印象に残った手をMIM(Most Impressive Move)として挙げてこうかと思います。

▲神崎健二-△中村亮介…中村勝

 振飛車党の中村に対し、ベテラン神崎は飛車先突かずに▲5七銀型を作っておいてからおもむろに▲8六歩と角頭の歩を突く捻った立ち上がり。そこから右側に二枚金、左側に二枚銀を配置するという、見ない形の左玉へ。銀が二枚並ぶ形は好形ですし、金が二枚並ぶのは堅い形。ダブル好形でお買い得、というわけにはいかないのが将棋です。先手玉は近くに金がいないのはいかにも薄ら寒い格好で、飛車先突破には成功するもその薄さから反動がキツいキツい。ただでさえ、左玉は反動を受けやすい戦型ですし。二枚金の出城に逃げ込むこともできず、左玉負け。

  • MIM:▲3六角(69手目)…一手前に▲3五歩とスペースを作っておいて、金無双の後手玉のコビンを直射する角打ち。勝ちには結びつきませんでしたが、こんなところに角打つ筋は見ことないので印象に残りました。

▲森けい二-△佐藤慎一…佐藤勝ち

 △ダイレクト向飛車に▲6五角と打つ形。佐藤康光が得意とするダイレクト向飛車ですが、この▲6五角打たれると居飛車系の力戦になるので純粋振飛車党には真似しづらい戦法です。かといって、▲6五角を打ってこないと普通の角交換振飛車になるので、居飛車党も採用しづらい。結果、力自慢の変態オールラウンダである佐藤康光の独壇場となってるわけですが。本局は後手が地下鉄飛車に転回したのが上手い構想で、強烈な縦の攻めで圧勝。

  • MIM:△3二飛(68手目)…2筋でお互いの飛車が向かい合ってたところからすっと一つ寄る。これが3一→8一のルートでの活用を狙った手で、もう▲2四歩が間に合わなくなってるという。実質、ここで勝負あり。

伊藤真吾-△村中秀史…伊藤勝ち

 初手▲5六歩から後手が三間に振ったのを見て、先手は中飛車穴熊へ。今度、左穴熊だけ解説した棋書も出るようで、いよいよブームの兆し。この戦法が嫌な振飛車党の人は、「東大流左穴熊」という杉本昌隆のネーミングの方を流行らせたらいいんじゃないかと思います。「東大流」と言われたら、指そうと思っていたアマチュアの3割くらいは指す気なくすはず。
 この前の▲久保利明佐藤康光戦では、飛車の5八→2八という意表の振り直しがありましたが、本局では5六に浮いてから2六へ。これも右の金銀を2筋に備えずに左へ寄せることができるようにするという意味では、同じ趣旨の手です。大事なのは金銀を動かさずに打ち込みの隙がない状態でこの牽制入れること。▲2六飛と寄ったら△2四飛と飛車交換しようじゃねえかと真正面から応じられて困った、なんてことにならないように。
 この将棋は、後手の穴熊城に張り付いた先手が守りを剥がそうと拠点を作っては駒をぶち込み、耐える後手が穴があいたところに駒埋めて補強する、という攻める方も受ける方もウンザリするようなことを80手目あたりから延々と50手以上やってました。

  • MIM:▲2六飛(25手目)…こう寄って△2四飛を消すという手があるのは知ってましたが、どのタイミングでやったらいいのか、はじめて理解できた気がします。

石井健太郎-△中座真…石井勝ち

 新四段の石井、所司和晴門下ということで渡辺明、松尾歩らの弟弟子。初順位戦で採用したのは角道を止める▲ノーマル四間。藤井システム風の駒組みですが、クマられる前に潰しに行くのではなく、堂々と銀冠組み上げて真っ向から穴熊と勝負。中盤のじっくりとした指し回しから、端に殺到して穴熊玉を引っ張りだし、強烈なタダ香放り込みで仕留めるという切れ味も見せての完勝。いい勝ちっぷりでした。この日は▲矢倉規広△高見泰地戦でも銀冠によるイビアナ退治が見られ、振飛車党アンチ穴熊派は大歓喜だったかと思われます。

  • MIM:▲3三香(103手目)…端攻めはうまくいったけどあと一押しどうするか、というところで飛び出した次の一手のような鮮やかな香捨て。一発で決めてみせました。ノーマル四間はアマチュアには依然、愛好家多い戦型ですので、人気出るんではないでしょうか。純粋振飛車党というわけではないようですけど。

▲三枚堂達也-△藤原直哉…三枚堂勝ち

 もう一人の新四段、三枚堂。こちらは内藤國雄門下。三段リーグを一期抜けしてきたという関西のホープに対し、C2一筋25年のベテラン藤原は端を突き合ってからの相横歩取りというド変化球を放ってきました。難解かつ一歩間違えれば即転落しそうなおっかない将棋でしたが、新四段は落ち着いて丁寧にキズを消していく大人の対応。終盤もすぱっと寄せて、こちらの新四段も好発進。やりよります。

  • MIM:▲7九歩(49手目)…後手の攻めは細いんだろうけど、先手も金銀バラバラにされて実戦的には難しいか、というところで受け切りを決めた渋い歩打ち。この一手で急に隙が見えなくなりました。

 こんなとこかな。…あ、村田顕弘-遠山雄亮戦、書くの忘れてました。横歩取り最新型からのまさかの持将棋からの午前2時半からのゴキ中5八金右超急戦。さすがに持将棋成立の時点で寝てしまいました。