四段余談

 先週金曜に行われた分の順位戦C級2組、いくつか気になった対局について書いておきます。

  • C級2組1回戦

▲石田直裕-△小林健二…石田勝ち

 相居飛車の出だしから、先手に飛車先交換許す代償に後手が銀冠目指す例のやつ。伊藤沙恵奨励会員などがよく指してるのを見ます。厚みが主張の銀冠ですが、独創的な駒組みをする小林、主張はとことんするタイプ。銀冠にとどまらず、3筋の位取って、金銀4枚全部を三段目以上に押し上げ、向飛車に振ってと右サイドを完全制圧。駒落ちなら上手必勝の陣といえますが、残念ながらプロの平手戦では上ずってまとめづらい陣形ということに。先手の馬に自陣深く潜入され、厚みが全く活きない横からの寄せをくらってしまいました。

  • MIM:△3三金(34手目)…2三〜5三の横一線に金銀4枚を並べる力強い金上がり。小林は5六に金をもってくる相振り中飛車とか、意欲的な自己流の駒組みが多くて見ててワクワクします。先日出した右玉左玉本でも、矢倉を組んでおいてそこに玉を入れないというワクワクさんもびっくりな作戦紹介してましたが、あれはさすがにやり過ぎだと思いました。

▲桐山清澄-△中田功…桐山勝ち

 角道止めた向飛車vs三間の相振り。お互い、大駒をちょこちょこ動かして牽制のジャブを当てながらも、大きなパンチ食らわないようガードはしっかり上げて睨み合う、相振りとしてはなんとも渋い展開。先にラッシュかけたのは中田でしたが、そこを耐えきった桐山が手にした持ち駒でカウンタ決めて勝ち。桐山はここ2期、鬼厳しい当たり引いて降級の憂き目にあいましたが、まだまだやれます。

  • MIM:▲2五竜(133手目)…後手の飛角桂桂が急所に迫ってきてる中、攻め合うのではなく攻め駒を責めて切らしてしまおうという竜引き。こうやるのが最短の勝ち方なんですね。

▲門倉啓太-△永瀬拓矢…門倉勝ち

 先手の端位取りKKS。そこからじっくり穴熊に組みますかと▲1八香。じゃあ、こちらもお付き合いしてと後手が△1二香上がると、すかさず▲3七桂。相穴熊と言ったがあれはウソだバカ。と言わんばかりの機敏な駒組み。序盤で取っておいた端の位活かした地下鉄飛車での端直撃狙いを見せられ、やむなく△2四歩〜2三金と端に備えることに。受けを苦にしない永瀬とはいえいかにも苦心の構えを強いることに成功して、先手作戦勝ち模様。現在、角交換四間を指しこなしてるといえるのは、プロの中でも藤井猛と門倉啓太の2人だけだと思ってますが、さすがの序盤です。
 終盤もなんとか穴には潜ったもののとても堅いとはいえない後手穴熊に対し、大駒バシバシ切って喰らいつく銀冠の暴力で門倉快勝。永遠の昇級候補・永瀬はこれで3期連続の開幕戦黒星スタート。過去4期の順位戦でも、後半5局は17勝3敗と羽生善治級の強さ発揮するのに対し、前半5局では10勝10敗と中座真級なほどほどぶり。順位戦苦手というのでもなく、とにかく出足だけ悪いというのは不思議です。

  • MIM:▲3七桂(39手目)…▲1八香で相穴熊を誘っておいての地下鉄飛車狙いの桂跳ね。ただ後手としても先手にだけ穴熊にされたらド作戦負けになってしまいますので、△1二香と追随するのはやむをえないところ。そもそも序盤で端の位詰められてる以上、クマりでもしないと戦えないわけで、すでに厄介なことになってしまってる感もあります。KKSおっかねえ。

▲藤森哲也-△宮本広志…藤森勝ち

 宮本は28歳と崖っぷちも崖っぷちで三段リーグを抜けてきた新四段。三段リーグ時の成績は決して悪くないので、遅咲きながら活躍が期待されます。
 本局は振飛車党の宮本に対し、3手目▲2五歩と藤森が注文付けましたが、なんやかんやで角交換振飛車に。△3五歩突くことで▲4七銀と受けるために▲4六歩突かせ、そこで△4二飛と振り戻すという駆け引き。私などは角交換振飛車がイヤだから3手目▲2五歩突いてる人間なので、こうなると振飛車にうまいことやられた感じしてしまいます。
 中盤は手厚く押してくる先手に、後手ええーいと暴発気味にが突進。ちょっと無理気味に見えましたが、先手の対応がやや腰が引けていた感じもあり、無理が通って後手の攻めが繋がった格好。すると終盤、劣勢とみた先手の方が今度はええーいとヤケ気味に勝負かけると、後手の対応ががっちり受けるんだか軽く凌ぐのか中途半端に。こちらのヤケも通り、結果は先手の勝ち。将棋は最後に無理を通したほうが勝つゲームです。

  • △6一銀(104手目)…敗着となった銀引き。明確な敗着というのは本当は他の手かもしれませんが、いかにも薄い受けで途端に怪しい雰囲気を作ってしまったのが罪重かった。夜23時回ってからの順位戦で指す手ではありませんでした。

▲星野良生-△千田翔太…千田勝ち

 もう一人の新四段・星野、名前はこれで「よしたか」と読むそうです。むつかしい。ちなみに茨田陽生は「あきみ」と読む。柏のボランチな。星野は対ゴキ中の超速▲3七銀の開発者として知られ、三段時に升田幸三賞も受賞してます。だせぇネーミングは本人ではなく勝又清和によるもの。
 昭和生まれの25歳・星野と、プロ2年目の平成っ子・千田。千田は1年目から活躍しましたが、あと一歩のところでタイトル挑戦を逃したために昇段も逃してまだ四段。ということでちょっと年の離れた一期違いの四段同士、どちらが上座に座るかでいきなりちょっとピリついたムード漂ったらしい。最近あんまり聞かないですよね、こういう話。棋譜中継の記者が煽ってるだけという気もしなくはないですが。いいぞもっとやれ。
 そのピリつきムードの影響か、千田が序盤から速攻を仕掛けて乱戦に。ソフトがやってきそうなぱっと見乱暴だけどウルサげな攻めでしたが、"げ"な攻めに簡単にやられるようではプロではありません。星野は落ち着いて対応し、切れ模様に追い込むことに成功。そこで千田は一転クソみたいな自陣角を打って受けに回ったんですが、ここからの千田の指し回しがただのクソ粘りに見えて実は自玉の守備駒と相手の攻め駒を交換することで攻め駒を補充し、再度の寄せを狙っていたワナ。夜戦に入ってからの星野の寄せが精彩を欠いたこともあって、にわかに混戦に。「これが星野調ですか」と控室にコメントされた▲5一金(83手目)のあたりではもうおかしい。この「○○調ですか」というのは専門用語で、「こんな手でいいの?俺なら絶対こんな手指さないけど」というのをオブラートに包んだ言い方です。受けなしに追い込まれた星野の最後の突撃も千田玉がしぶとくもギリギリしのいで四段同士の一戦はプロの先輩、千田が制勝。

  • MIM:△4二角(66手目)…検討陣も絶叫のクソ角。これぞ順位戦という忍の一手。朝から将棋指してきて、夜22時過ぎにこんな手指されるとおかしな気にもなろうというもの。こうしてまた若者が1人、順位戦の怨念に染まっていくことになるのでありました。

 こんなところで。C級2組の昇級予想もしときますと。やはり初戦負けからは選びにくい。この時点で永瀬拓矢、阿部光瑠らは落っこち。まずは好順位の2期目千田翔太。1期目から8勝と順位戦適性も心配ない。最後の横山泰明戦の前に決めておきたいところ。あとやたら振飛車党とばかりの対局が組まれてる村田顕弘。これだけ偏ると対振りに研究絞れてプラスに働くんではないかと。まあ、振飛車党といっても初戦の遠山雄亮はいきなり横歩取りにしてきましたが。最後の1人は、新四段から石井健太郎。over60のベテラン勢との対局が多く組まれており、こう言ってはなんですがチャンスでしょう。