TFMG

 T(対)F(振り)M(右)G(玉)という略称の提案。KKS(角交換四間)やTKG(卵かけごはん)に比べて言いにくいのが難。

小林健二(0-1)-△田中悠一(1-0)…持将棋指し直し

 1回戦ユニークな構想を見せた小林ですが、本局も3手目▲2五歩の飛車先突き越しから5手目▲4八銀という出だし。実は私もこのオープニング、最近試してるのでこの時点でワクワクが止まりません。
 この▲2五歩〜▲4八銀と角道を開けずに進める意味ですが、狙いとしては一つは飯島流や鳥刺しといった引き角系の戦法。もう一つが本局の対振り右玉。引き角はそもそも角道開けない戦法ですし、対振り右玉は角道開けてもいいんですが、どうせ△4五歩や△6五銀などを警戒してすぐ閉じることになるのでそれなら後回しでいい。ただ一般に3手目▲2五歩はプロレベルでは相居飛車になると不利とまでは言えないけど、作戦の幅が狭くなって面白くない指し方だと言われます。そこに▲4八銀も加わるとはっきり損と言い切る人も多いわけですが。振飛車党の田中はあっさりと向飛車を選択。田中が居飛車にした場合どうなってたかも気になるところですけど、その場合も小林は右玉にしてたんじゃないかという気します。
 ちなみに小林は2年前の順位戦高崎一生戦でも対振り右玉を採用して勝ってます。その時は▲6七銀のツノ銀型でしたが、今回は▲5七銀の二枚銀型。こちらの方が手厚く相手の攻めを受け止めるイメージですかね。▲6七銀型は5六や7六に使っていける分、攻めっ気が強いという印象。
 対して、田中は金を4三に上がって手厚さには手厚さで対抗という構えですが、この構想はどうでしたか。手厚さ勝負となると右玉の土俵に乗っかってしまった感あります。実際、そこからは右玉側が中央での押し合いを制し、馬も作って手厚さ勝負では完勝。ただ「手厚さ」というのは、将棋の優勢ポイントの中でも他の「駒得」やら「玉の堅さ」やらに比べて勝ちに結びつけるのがずっと大変だったりします。うまいこと「駒の働き」ポイントに引き換えて利用できればいいんですが、ヘタすると「陣形の上ずり」とか「玉の薄さ」として相手に逆用されてしまい、手厚さ一筋に生きてきたのに…俺の人生なんだったんだ…と首吊るハメになります。
 本局でも右玉大優勢のところから田中の懸命な喰らいつきにおおいに冷や汗かかされ。なんとか「手厚さ」の貯金活かして入玉は果たしたものの、大駒3枚持たれて残り1枚の飛車も自陣に置いてけぼり。相入玉となったら点数足りなそうでこりゃ負けになったか、と思ったんですが、ここからの小林の指し回しがまた凄かった。田中が点数勝ち決めようと置いてけぼりの飛車を包囲してきたのに対して、持ち駒の金銀4枚を4六、4七、5九、3八と自陣に次々投入。これで飛車を狙ってきた角を逆に召し捕り、かつ飛車は生還させるという、鬼島津もびっくりの見事な撤退戦を見せてくれました。しかも金銀4枚のうち、角と刺し違えた金以外の3枚も本隊に追いついて生き残るという神業。この小林の捨て奸で痛手を負った田中の方が逆に点数ギリギリとなりましたが、なんとか24点を確保して264手で持将棋に。

▲田中悠一(1-0)-△小林健二(0-1)…△小林勝ち

 夜中の0時半過ぎから始まった指し直し局でしたが、小林まさかの対振り右玉二連投。そして圧勝。ひええ。終局時刻は3時44分。おそろしいのが小林の持ち時間が2時間も残ってること。指し直しの時点で1時間足されてるとはいえ、2局合わせて382手指してるんですが。右玉最強じゃないですか。小林健二著「相振り飛車で左玉戦法 居飛車で右玉戦法」絶賛発売中!