ねちり合い

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 ということで、昨日行われた竜王戦について。

中村太地(4組優勝)-△深浦康市(1組5位)…△深浦勝ち

 爽やかな顔して粘っこい将棋も辞さないタイプの中村太地と、果敢な踏み込みも辞さないけど粘っこい顔してる深浦康市の対戦。好カードです。深浦の対局はだいたい好カードになるんですけど。
 戦型は角換わり腰掛け銀、後手が△7三歩型から穴熊への組み換えを狙う形に。したり顔で書いてますが、角換わり腰掛け銀は3年前に理解することを諦めて以来、細かい変化を言われると体が痒くなるのであまりよく分かってません。勉強しようとして最初に手に取ったのが東大将棋ブックスだったのが間違いだったんだと思います。
 あまりに無知では何も書けないので、とりあえず解説コメで類例として挙がってる、竜王戦'13年7月▲羽生善治△森内俊之戦王将戦'14年2月▲渡辺明△羽生善治戦王座戦'13年4月▲中村太地△森下卓戦、見てみますと。いずれも飛角銀桂香の強烈な布陣で先手がガリガリと攻めかかり、後手玉はもそもそと穴から這い出して自らの生命力に生き残りを賭けるという展開。攻めを誘うためだけにクマるふりをして猛攻受けるという、なんだか行き過ぎた駆け引きの世界。やはり私には理解難しいです。背中かゆい。
 本譜も同じように中村の攻め、深浦の受けという展開に。なるかと思ったところで、ふっと取られる歩を突き出す△1六歩が深浦用意の新手。今まで指されてた△1四同香から1五で香交換になる順は、手順に1五に出てきた先手角が機を見て4二の金と刺し違えてくる手が強烈で後手いかんということでの工夫でしょうか。この△1六歩は▲同香なら△2七角と攻め駒を攻める手を見せて、さらに先手を焦らせて攻めを誘おうという誘い受け。まだ誘うか。ここまで誘われるとさすがにホイホイとは乗りにくい。中村は2時間半超の大長考の末に▲3五歩。深浦の誘いにストレートには乗らず、まずはお友達からという手ですが、この局面ではいささか草食系に過ぎましたか。4五の地点で精算されて△6九銀と先に絡まれてしまうことに。結果、感想戦で▲渡辺△羽生戦に比べて、損な形になったと中村が悔いていましたが。
 
 なるほど。こうして比べてみると大損なのは明らか。
 深浦玉を穴から引っ張り出し損ねた中村は、攻め合いを諦め、ここはひたすら耐えるべしとぺたぺた自陣に駒を打って粘りの一手。駒を埋めての頑強な粘りは中村の持つもう一つの顔で、先の藤森戦や、昨年の羽生との王座戦でも見られました。こういう粘り方は泥臭いとも思えますが、コンピュータなどもこういう決め手を与えない粘り方をしばしば見せますし。むしろ現代的、合理的な指し方なのかも。
 ここから深浦のネチネチと耳元に息吹きかけてくるような絡みつきを60手近く耐えに耐え続けた中村ですが、あまりのねちっこさについにブチ切れて▲1三桂と攻め合いに。が、そこをズバッと急所突かれて急転直下。攻めずに▲8六銀と銀外して上部脱出に賭けてればまだドロドロの戦い続いたと思うんですけど。序盤の大長考のせいで秒読みに追われてましたので、糸が切れてしまうのもやむなし。
 これで竜王戦トナメ、左の山で残ったのは深浦、郷田真隆羽生善治。ここはひとつ一番若手の深浦に頑張って欲しいですね。一番の若手(42歳)。

  • MIM:▲6八飛(115手目)…執念の自陣飛車。107手目▲6六歩から5手連続で自玉の周りに駒を打ち付けるという歯食いしばった粘りでしたが、まだ持ち時間をたっぷり残してた深浦相手に逆転には至らず。