責める受けvs粘る攻め

羽生善治-△木村一基持将棋引き分け

 1勝1敗で迎えた王位戦第3局。ここまでは矢倉矢倉と来ましたが、3局目は角換わりに。▲2六歩△8四歩という相掛かり風のオープニングから3手目▲7六歩と、羽生が矢倉&相掛かりを避けて角換わりor横歩取りを誘った格好。
 右四間での先攻体勢を見せる羽生に対し、△2四銀〜△5九角と前進守備を敷いて完封を狙う木村。▲3三歩(61手目)と3二の金を歩で叩いてきた手に対しても、精算に応じずに金を4三にかわして桂を取りきってしまおうというのが一か八かの強い受けで木村ペースに。玉のすぐそばに垂れ歩が残るわ守りの要の金はそっぽに行くわで、形としてはおっかな過ぎるんですが、玉の生命力を信じた"受け師"らしい見切りです。受けに回ってるんだけど妥協は一切しないという姿勢が格好いい。外交官とかやらせたらきっと有能だと思います。
 木村の強防に切れ模様に追い込まれた羽生ですが、ここから気持ち悪い歩を垂らしてみたり、一見意味不明な端の突き捨て入れてみたり、狭すぎるスペースに飛車ねじ込んでみたりと怪しい手でねとねとと絡みついて"切れ模様"の状態でずっと踏みとどまるという気持ち悪い粘りを発揮。攻めてる方が粘ってるというわかりにくい将棋に。ずーっと切れ模様なんだけど、完切れではないので手は続いていくというこの気持ち悪さに木村ももらってしまい、王手馬取り喰らって馬を抜かれる羽目に。それでもまだ羽生の攻めが切れ模様なことは相変わらずだったと思うんですが、これだけ受けても完切れにさせられず、捕まえられそうだった飛車で逆に馬を取られてしまったとなるとかなりガックリきます。少なくとも受け切り勝ちは諦めざるを得ません。
 ただ、木村もここから△6五桂から寄せ合いで勝負にいく、と見せかけて取った金で玉ではなく飛車を詰ませにいって上部開拓&点数確保で入玉狙いに切り替えるという二枚腰のしぶとさで踏ん張り。「受け切り」から「寄せ合い」に方向転換しようとすると舵を180度切らないといけませんが、「入玉」なら45度くらいで済みますから転覆のリスクも小さくなります。どうせ舵切るなら思いっ切り回したくなるものなんですが。羽生の方もこの将棋は辛い局面が長かっただけに無理に勝ちに行こうとせず、相入玉持将棋成立。
 タイトル戦で持将棋とか記憶にないですが、20年以上ぶりのことだとか。それは記憶にないはず。千日手と違って即日指し直しではなく引き分けとのこと。もう1局余計に見られるんであれば外野としては歓迎です。