140812朝日杯

 気になりつつ買いそびれてた、森信雄「逃れ将棋」がKindleで400円だったので買ってみました。これが初電子棋書。こういう問題集系は最も電子書籍に向いてる形態ですね。
 あと今泉アマの中飛車本も600円ちょいになってて勢いでポチりそうになりましたが、「お前今右玉しか指してないだろ」という心の声が聞こえてなんとか思いとどまりました。

  • 朝日杯一次予選

▲塚田泰明-△佐藤慎一…▲塚田勝ち

 後手佐藤のノーマル三間に先手塚田は一目散に居飛穴へ。
 振り飛車がちょっかい出す気配もなく淡々と駒組み進めたもんだから、居飛車は何の苦労もなく金銀4枚の穴熊完成。固めすぎると仕掛けるのに苦労するのが相場ですが、これまたあっさりと端から仕掛けの機も掴んで飛車交換、飛車を先着したのも居飛車。定跡書ならこれにて居飛穴ド必勝で打ち切られるような局面できあがりましたが、お構いなく端攻め一本狙いで黙々と戦力を集める佐藤。塚田もその様子に不気味さを感じ冷や汗をかいたのか、思わず手が滑ってすっぽ抜けの大チャンスボールをど真ん中に。9回裏に魔物がいたか、と思ったらそのホームランボールを佐藤がさくっと見逃してストライク、ゲームセット。魔物ずっこけ。

窪田義行-△田中悠一…▲窪田勝ち

 先手が向飛車、後手が角道を止めた三間での相振り飛車
 後手が穴熊を目指そうと香を上がった瞬間に先手が早速の仕掛け。▲7四歩△同歩▲5五角△6四歩▲8四歩と流れるような手順で相手の飛車の横利きを止めながら7筋の歩交換果たして二歩を手持ちにし、それを使ってお次は端攻め、それだけでは決まらないとなれば今度はB面攻撃、と相振りの教科書のようなめくるめく窪田の攻め。そこから9筋にいた後手玉を1筋まで追っかけ回すという、なんともやんちゃな力づくの寄せまで繋げて窪田勝ち。

▲石川陽生-△窪田義行…△窪田勝ち

 2回戦も振り飛車党同士の対戦で相振り飛車かと思ったら、石川が飛車先突いて居飛車に。対する窪田は角交換からダイレクト向飛車。▲6五角からの乱戦力戦は窪田の土俵と見たか、角は打たずに囲い合う展開に。
 先に動いたのはやはり窪田。△6九角とすぐ殺される位置に角をねじ込んでの強引な突破で飛車を成り込むことに成功。駒損の攻めなのでプロ的には難しい形勢なようですが、アマ的にはとりあえず振り飛車側がペース握って勝ち易い将棋に見えます。こういう攻め喰らうから角交換振り飛車の相手するのイヤなんです。

渡辺大夢-△木村一基…△木村勝

 "千駄ヶ谷の受け師"木村に対し、渡辺も同じく受け棋風。受け×受け。
 戦型は角換わり腰掛け銀に。どちらが受けに回るかが焦点でしたが、先手の渡辺が穴熊を見せて木村の攻めを誘う展開に。ここは先輩が後輩に受けを譲りました。
 後手が攻めようと前に出てきたところで、▲9一角とその死角から攻め駒をイジメにいく先手。これなら渡辺も力出せる展開かと思いましたが、イジメについてはやはり木村が一枚も二枚も上手だった模様。角換わりで一番のイジメられっ子である桂はあっさり捌かれ、飛車にもするりするりと逃げられ、気づいたら逆に後手のイジメの魔の手が迫っていて、先手の桂・飛車は助けようがないという恐怖。どうしてこうなった。
 受け棋風同士らしい爽やかさの欠片もない戦いとなりましたが、最後は詰ませるとこきっちり詰ませて木村勝ち。さすがの貫禄。

女王の雁木

 記事のタイトルに「雁木」とつくのは今回で3回目。あまりの最強っぷりに雁木について興味もたれた方は、ちょうどはんどろやノートさんが面白い記事書かれてて、この対局についても触れてますのでそちらをどうぞ。

香川愛生-△加藤桃子…△加藤勝ち

 女流王座への挑戦を目指す、女流王将と女王の対戦。
 初手▲5六歩の先手中飛車の出だしに対し、後手は飛車先を決めて5筋の位を保つ指し方でしたが、ここで先手が▲8八銀と居飛車に変化。

 この前は大胆な手順での後手番石田流をやってましたし、香川は作戦家というかケレン味のある序盤を指すタイプみたいです。
 この先手中飛車と見せての▲8八銀という手自体はそこそこプロの実戦例もある将棋で、手元のデータベースだと先手の勝率がなんと6割超えてます。
 後手の対応はいくつかあるんですが、まずごく自然に角道開ける△3四歩は、角交換から▲5三角△5七角と打ち合い、馬を作り合っての手将棋になります。将棋倶楽部24の高段でこればっかり指してる人たち見た記憶あります。完全な力戦ですし先手は手損することになるのでどっちが有利不利とかはなさそうな将棋ですが、プロではなぜか後手の勝率2割台と壊滅的なことになってます(そのせいで▲8八銀の勝率が跳ね上がってる)。
 そこで本局のように△6二銀と上がる方が多数派で、これだとほぼ初期値通りの勝率(先手53%)に落ち着きます。ここから5筋を突き合ってる形の変則角換わり、早めに△6四銀と出て先手の角頭を狙う急戦、本局のようなじっくり雁木のだいたい3パターンに分岐。
 先手には自分だけ飛車先切れるという実利が主張としてありますが、▲7七角・8八銀という形の気持ち悪さを咎められないように気を使わないといけないので駒組みでリードするのは簡単ではないように思います。▲7七角・8八銀型の何が気持ち悪いかって、元々角頭というのは桂頭、飛車のコビンと並ぶ三大急所の一つなのに、それをわざわざ自分から敵の近くに晒すような真似してるわけですから。当然ながら晒しっぱなしで何のケアもしないわけにはいかないのですが、自分から近寄っといて襲われないかビクビクしないといけないとか、冷静に考えると馬鹿なのかな?という気もしないではないです。飛車を2五に浮いてケアした実戦例などもありますが、浮き飛車はそれはそれで目標にされやすいので気を使いますし。
 本局では、加藤は急戦は見送って雁木に組む作戦。これも実戦例がある形(主に"大加藤"加藤一二三により)。雁木は元々相手に自由に飛車先切らせる戦型ですので、いわば相手の主張を聞き流す姿勢。相手のケレンには付き合わないのが大人の態度ということですか。加藤はまだ19歳なんですけど。
 先手は矢倉から穴熊に組み替えて全力で受ける構えですが、後手もじっくりじっくり理想型に組み上げながら戦機を待つ体勢。動かす駒なくなった先手が角を立て直そうとした瞬間に、溜めに溜めた力でドシンとコークスクリューブローを繰り出し、あっという間に穴熊は崩壊。まあ、相居飛車での穴熊は堅いわけでも手厚いわけでもなく、ただちょっと戦場から遠いだけの半端者ですから。穴熊側も当然反撃しますが、雁木は堅くはないにせよ手厚いですし、一段玉なので縦からの攻めに対しては意外と遠くてパンチが届かない。ということで穴熊vs雁木、先日のA級順位戦広瀬章人行方尚史戦も記憶に新しいですが、これで雁木が連勝。誰だよ穴熊を神とかいったやつ、出てこいよ。
 女流王座トナメの方はこれでベスト4が出揃い、伊藤沙恵、西山朋香、中村真梨花加藤桃子という、最年長が27歳の中村、あとは20歳以下という世代交代を印象づける面子に。ただ奨励会員が3人を占めているので、女流棋界にフレッシュな風が、とは微妙に言いがたいものが。

責める受けvs粘る攻め

羽生善治-△木村一基持将棋引き分け

 1勝1敗で迎えた王位戦第3局。ここまでは矢倉矢倉と来ましたが、3局目は角換わりに。▲2六歩△8四歩という相掛かり風のオープニングから3手目▲7六歩と、羽生が矢倉&相掛かりを避けて角換わりor横歩取りを誘った格好。
 右四間での先攻体勢を見せる羽生に対し、△2四銀〜△5九角と前進守備を敷いて完封を狙う木村。▲3三歩(61手目)と3二の金を歩で叩いてきた手に対しても、精算に応じずに金を4三にかわして桂を取りきってしまおうというのが一か八かの強い受けで木村ペースに。玉のすぐそばに垂れ歩が残るわ守りの要の金はそっぽに行くわで、形としてはおっかな過ぎるんですが、玉の生命力を信じた"受け師"らしい見切りです。受けに回ってるんだけど妥協は一切しないという姿勢が格好いい。外交官とかやらせたらきっと有能だと思います。
 木村の強防に切れ模様に追い込まれた羽生ですが、ここから気持ち悪い歩を垂らしてみたり、一見意味不明な端の突き捨て入れてみたり、狭すぎるスペースに飛車ねじ込んでみたりと怪しい手でねとねとと絡みついて"切れ模様"の状態でずっと踏みとどまるという気持ち悪い粘りを発揮。攻めてる方が粘ってるというわかりにくい将棋に。ずーっと切れ模様なんだけど、完切れではないので手は続いていくというこの気持ち悪さに木村ももらってしまい、王手馬取り喰らって馬を抜かれる羽目に。それでもまだ羽生の攻めが切れ模様なことは相変わらずだったと思うんですが、これだけ受けても完切れにさせられず、捕まえられそうだった飛車で逆に馬を取られてしまったとなるとかなりガックリきます。少なくとも受け切り勝ちは諦めざるを得ません。
 ただ、木村もここから△6五桂から寄せ合いで勝負にいく、と見せかけて取った金で玉ではなく飛車を詰ませにいって上部開拓&点数確保で入玉狙いに切り替えるという二枚腰のしぶとさで踏ん張り。「受け切り」から「寄せ合い」に方向転換しようとすると舵を180度切らないといけませんが、「入玉」なら45度くらいで済みますから転覆のリスクも小さくなります。どうせ舵切るなら思いっ切り回したくなるものなんですが。羽生の方もこの将棋は辛い局面が長かっただけに無理に勝ちに行こうとせず、相入玉持将棋成立。
 タイトル戦で持将棋とか記憶にないですが、20年以上ぶりのことだとか。それは記憶にないはず。千日手と違って即日指し直しではなく引き分けとのこと。もう1局余計に見られるんであれば外野としては歓迎です。

日本将棋連盟モバイル初課金

 昨日が名人戦棋譜速報の課金の期限だったんですが、次の順位戦行われるのが2週間以上先ということなので今課金継続するのはもったいない。そこで初めて日本将棋連盟モバイルの方に入ってみました。8,9月分で1000円也。月500円は名人戦棋譜速報と同じですが、こっちはほぼ毎日中継あるのが最大の売り。これは暇が潰れすぎて困ってしまいます。ただ順位戦は全局中継するわけではないのとパソコンで棋譜見れないのが難。前者は名人戦棋譜速報と二重課金すればいいんでしょうがちょっとなあ。後者はなんか方法あるのかな。
 あと、なぜか課金時に1000円と同時にさらにもう200円余計に引き落とされたんですが、問い合わせるべきかと考えてるうちに返金されてきました。あれは何だったんでしょう。
 ということで、今後は日本将棋連盟モバイルの方で中継してる対局についての感想も書いていきますよっと。

戸辺誠-△西尾明…▲戸辺勝ち

 先手中飛車。後手の二枚銀で中央からの逆襲速攻を狙う構えに対し、先手は悠々と穴熊に囲い、更にフタされる危険も顧みずに堂々と5筋の歩交換も果たすという、なかなかに図太い立ち回り。よっぽど楽観的なのか、「俺が暴れりゃおしめえよ」と思ってるのか。この図々しさ一歩手前の思い切りの良さは戸辺将棋の魅力なんですが、たまにその一歩をはみ出してしまったところをキッチリ咎められたりするのが順位戦で停滞してる原因なのかという気もしないではない。
 本局では捌き合いのところでは戸辺苦戦に見えましたが、相手の駒の働きを一瞬鈍くさせておいてその瞬間に喰らいつく、"THE穴熊の暴力"を炸裂させて戸辺勝ち。

▲塚田泰明-△八代弥…千日手指し直し
▲八代弥-△塚田泰明…△塚田勝ち

 塚田先手で横歩取りの出だしから先手が横歩取らずに飛車を2八に引き、代わりに後手が横歩を取るという逆横歩取りに。先日のA級順位戦渡辺明深浦康市戦でもあったやつですね。派手な空中戦から後手は先手中原囲いの右半分の美濃部分を吹っ飛ばして飛車成り込みに成功。先手陣に残るは囲いというか壁になってるだけの金銀のみで、これは後手勝ちかに見えたんですが、壁の金をひょいと引いて第二の美濃を作ったのがギリギリの耐え。後手もぺたぺた張り付いたものの、ひたすら城壁を修復されて結局千日手に。
 指し直し局は相矢倉。最近の矢倉は先手の攻めに後手の専守防衛という構図が少なくないですが、本局は後手の塚田から先に手を出したもんで火の出るような殴り合いに。最終的には殴り合いというか下駄の預け合いになった結果、29手詰めを八代が逃して塚田勝ち。

抜き身の一刀流

 挑決進出を賭けた竜王戦トーナメント横目に見ながらの更新。…あら、羽生-郷田戦終わってしもうた。むう。糸谷-行方戦はまだやってますが、この記事書き終わる頃にはこっちも決着ついてそうな気配です。

▲今泉健司アマ-△船江恒平…▲今泉勝ち

 先日、稲葉兄が畠山弟に敗れたので唯一の生き残りとなった今泉健司アマ。今度、プロ編入試験で若手四段と五番勝負を戦うということですので、同じく若手で段位は一つ上の五段である船江相手に良い将棋指して勢い乗りたいところです。
 先手が中飛車マスター・今泉ということで、堂々の初手▲5六歩でいきなり刀を抜く中飛車宣言。対する船江の作戦は相振り飛車。元々この相振りが手強いということで初手▲5六歩は主流になれず、先手中飛車指すにしても初手▲7六歩として2手目△8四歩を見てから▲5六歩で中飛車に、△3四歩なら▲7五歩で石田流にという二刀流が現代振飛車の本流とされてきたわけですが。そんなもん知ったことか、相振りだろうがどんと来いと。
 これで後手が普通に三間もしくは向飛車に振れば、匕首中飛車穴熊を抜くような展開もありそうでしたが、船江が振ったのは意表の四間。ほほう。確かに「相振り飛車では、飛車を振るのは遠ければ遠い筋ほど良い」という"大介ドクトリン"は三間の台頭により現代では形骸化してますし、3手目▲6六歩から四間に振る(場合がある)西川流なども出てきましたが、それでも三間≧向>>(越えられない壁)>>四間&中飛車というのが相振り飛車での基本イメージ。わざわざ好んで四間に振るもんじゃないという思い込みありましたのでこれは斬新。

 手探りの駒組みが進むと、囲いは相金美濃という見慣れない戦いに。こうなると何となく四間に振った狙いも見えてくる気がします。要は飛車が5八にいるので左金をスムーズに囲いに寄せられないという中飛車の欠点を突くのに、4筋から攻めていくぞという姿勢見せる(実際、攻めるかは別として)のが有効だということでしょか。本局ではとっさの判断で金美濃に組んでますが、実際、中飛車側が4筋攻めに備えて守備駒を2枚以上利かせようと思ったら金美濃くらいにしか安全に組めない気がします。まあ、金美濃もそんな捨てたもんじゃないので、金美濃を強制させたから即作戦勝ちとまではいかないでしょうけど。とはいえ、美濃、穴熊の選択肢をなくすというのはやはり大きい。
 あと、相振り中飛車での常套手段として飛車を浮いて横利きで相手の飛車先交換を防ぐというのがありますが、四間相手だと5六の飛車で4六の地点を受けるということになります。これは当たりが強いなんてもんじゃない。パンチの風圧感じるレベル。実際、この対局でも飛車はイジメにあってました。
 なるほど。先手中飛車対策の四間飛車、ありそうです。これは次の杉本昌隆の相振り本で紹介されてもおかしくない。しかしこういう秘策を狙い撃ちしてぶつけられてしまうのが、スペシャリストの宿命とはいえ辛いところです。特にプロだと前もって対戦相手も場合によっては手番も決まってますので、狙い撃ちし放題。しかもこの情報化社会、良い狙撃場所が見つかったとなれば誰も彼もそこから撃ってきますから。そら最近の振り飛車党はみんな地下に潜って横歩取りだの指し始めるわけです。A級で振り飛車を指し続けてる久保利明はマゾなのかな。
 本局では、やや苦しめに見えたところから今泉アマが金玉を相手の顔面にさらけ出す力強すぎる受けで攻めを余して見事に勝ち。あらためてその実力を示しました。本当に強い。ただ秘策をぶつけて勝ちに来た船江のガチっぷりに、この後に待つプロ試験のこと考えてちょっと背筋が冷えました。新四段たちも本気で殺しに来るでしょうね。若きスナイパーたちの銃弾を石川五ェ門ばりにたたっ斬れますでしょうか。

 あ、やっぱり糸谷−行方戦も終わってました。今日は早く寝るか。

ミーオ号の受難

 来月は、藤森哲也の急戦矢倉本中村太地角換わり本とが出るみたいですね。中村本は著者のイケメンぶりを前面に押し出した表紙の王道路線。必殺仕事人みたいな写真になってます。一方、急戦矢倉本というと金井恒太「対急戦矢倉必勝ガイド」とか及川拓馬「すぐ勝てる!急戦矢倉」など一冊でほぼ急戦矢倉をマスターできるような良著が既にありますが、今回の藤森本は一冊丸々使って米長流(&それを改良した藤森流)の解説という、マニアックにもほどがある内容となってる模様。米長流とか藤森以外誰も指してませんから。しかし最近めっきり棋書買わなくなった私ですが(一番最近買ったのが小林健二著「相振り飛車で左玉戦法 居飛車で右玉戦法」)、この藤森本には久しぶりに購買意欲が。イカした表紙の中村本もいいですが、イカれた作りの藤森本の攻めの姿勢、応援したいです。

中村真梨花-△渡辺弥生…▲中村勝

 奨励会員が荒らしまわってる中、準々決勝で唯一の女流同士の対戦となった本局。先手中村お得意の藤井システムに対し、後手渡辺は持久戦と見せて銀を繰り出していく右銀急戦で対抗。
 大駒総交換の大捌きから飛車を先着できたとなれば居飛車十分かに見えましたが、桂香取りあってさてと一息ついて盤面見てみると居飛車側はこれといった早い攻めがないし、泥舟囲いはグズグズでちょっと押されただけで崩れそうだし、美濃は遠い上に端広いし。あれ、これって居飛車必敗に近いんじゃ…と愕然。気を取り直して、攻め合いで勝ち目ないなら固めてチャンス待つしかあるまいと、一度出て行った銀を引きつけてみたり底香打ったりしたんですが、なにせ元が泥で出来てますので手入れしようが特に堅くなってる感じもなく。マリカ攻め喰らうとあっさり王様は舟から放り出されてあえなく溺死。この時期、水の事故にはくれぐれも気をつけましょう。あと舟の手入れは海に出る前にしてください。

後の先

豊島将之-△丸山忠久…▲豊島勝ち

 羽生善治王座への挑戦権を賭けた一発勝負。振り駒で後手丸山。となれば戦型は当然のごとく4手目角交換からの丸山ワールド・一手損角換わりへ。
 先日の日シリ▲中村太地△丸山戦と同じ出だしでしたが、丸山が△4五銀のスルスル銀を自重したので豊島が先攻することに。

 これがその仕掛けの局面。なんでしょう、部分部分の駒の配置はよくあるような感じなんですけど、全体の組み合わせとしては微妙な違和感があります。あまりにも頭部が薄いし脇も甘い先手玉、△5二金・5一玉という金玉型の後手玉という「せめてあと一手」がお互い間に合ってない玉形もそうですし、先手の棒銀+▲3五歩の仕掛けに対して後手が△1四歩を省略してるところも引っかかります。元々この棒銀+▲3五歩は一手損角換わりではよくある仕掛けで、棒銀が端に出てくるのを防ぐために突かざるをえない△1四歩のセキュリティを無駄にさせるために裏口から侵入しよう、という後出しが狙い。それが△1四歩を省かれては後出しでも何でもなくなってしまってます。なんだか先手損じゃないかと思いますが、それもここまでの間に繰り広げられた凄まじい後出しやらフェイントやらの結果。
 まず最初の後出しが4手目△8八角成。最速のタイミングでの角交換ですので、後出しじゃなくて先出しに思えますが、これは角交換振飛車という後出しの含みをチラつかせる、後の先ならぬ先の後の角交換。このチラリズムで先手の駒組みを制限してるわけです。たぶん。通常、角換わりでは2七→2六の棒銀ルートの含みを残すために右銀は3八に上がりたいんですが、振飛車にされると3八銀型は作戦の幅がかなり狭くなって嫌な感じ。銀上がりを保留する▲7七銀、▲7八金なんかも同じく振飛車にされた時に囲いが限定されてしまいますし、▲6八玉と玉上がるのもちょっと早く、袖飛車からの速攻などを警戒しないといけません。
 ということで4手目△8八角成によって先手は7手目▲4八銀と上がらされることになり、棒銀が消えます。こうなると棒銀>腰掛け銀>早繰り銀>棒銀の角換わりジャンケンの法則に従えば後手としては負けのない腰掛け銀を心置きなく目指していけます。ここから先手の早繰り銀に対して右銀を一目散に4三にまで引きつけて迎撃体制を築き、玉を△3二玉型に囲うのが丸山得意の形。一昨年の竜王戦などでも採用してました。
 そこで今度は21手目▲2六銀と一度消されたはずの棒銀を見せるのが先手の牽制球。2筋に大砲の照準合わせられるとさすがに△3二玉型はおっかなくてとても無理。ということで22手目△3二金と上がらされることになり△3二玉型はなしに。ただ、通常の棒銀と違って4八→3七経由のルートなために飛車のコビンが開いており(4手目△8八角成の効果)、後手は色々と切り返しが利きますので通常の棒銀に対するように△1四歩を突かなくとも大丈夫。
 …ということで、上図のような局面に至ったわけですね。ちなみにこのちょっと前には、相手が守備をひたすら固めてるだけならこちらは囲いは手早く済ませてしまおうという19手目▲7八玉に対し、そんな調子こいた態度取られたらこちらも殴り合い辞さんよとばかりに20手目△8四歩と伸ばしていく、なんていう駆け引きもあったり。外見は温厚そうな両名ですが、指してる将棋は全くもって不穏当。
 対局の方は、ここから豊島がもったり攻め込むのを丸山がもっちゃり受け止めて決め手与えず入玉含みの将棋、と先日の順位戦のような展開となり、入玉型だとコンピュータばりに怪しくなる豊島に丸山が猛ラッシュ。これは決まったか、というところから急転直下、まさかの丸山トン死で豊島勝ち。お。なんだなんだ。
 これで豊島は2011年久保利明に挑戦した王将戦以来のタイトル挑戦。またずいぶん久しぶりです。若手トップと目されてるわりに、新人王も含めいまだにタイトル童貞というのはちょっとなんです。魔法使いになってしまう前にここらで一つ。まあ、相手はここ22期中21期で王座に座り続けてる魔王ですけども。